福岡高等裁判所 昭和50年(ネ)204号・昭50年(ネ)214号・昭50年(ネ)219号 判決
主文
一 本件各控訴に基づいて原判決を次のとおり変更する。
二 熊本地方裁判所八代支部昭和四六年(ケ)第四七号船舶競売事件において、同裁判所が昭和四七年五月八日作成した交付表(原判決添付の別表1の(1)、(2))中、配当順位六番の保田俊光ほか六九名に対する交付欄について
1 別表3新交付表記載の一審被告ら(ただし、一審被告斉藤光広を除く。)に対する各交付額(原判決添付の別表1の(2))を別表3新交付表の各交付額欄記載のとおり変更し
2 別表3新交付表記載以外のその余の一審被告らに対する各交付額(原判決添付の別表1の(2))をいずれも削除し
3 合計欄(原判決添付の別表1の(1))に「保田俊光ほか六九名に対する交付額金二、四三二万四、九二一円」とあるのを「保田俊光ほか二五名に対する交付額金四五八万五、七四二円」と変更し
4 一審原告株式会社幸福相互銀行に対し金一、五八一万一、三八三円を、一審原告千代田火災海上保険株式会社に対し金三九二万七、七九六円をそれぞれ交付する。
三 一審原告らの一審被告斉藤光広に対する請求及び別表3新交付表記載の一審被告ら(ただし、一審被告斉藤光広を除く。)に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用中、一審原告らと一審被告斉藤光広との間に生じたものは全部一審原告らの負担とし、一審原告らとその余の別表3新交付表記載の一審被告らとの間に生じたものはこれを五分し、その四を右一審被告らの負担とし、その余を一審原告らの負担とし、その余の一審被告らと一審原告らとの間に生じたものは全部右一審被告らの負担とする。
事実《省略》
理由
一一審原告幸福銀行の有する債権額について
<証拠>によれば、請求原因(一)の事実を認めることができる。
二一審原告千代田火災の有する債権額について
<証拠>によれば、請求原因(二)のうち(イ)を除く事実を認めることができ、<証拠>によれば元本の弁済方法は昭和四四年八月三〇日を第一回とし、昭和四七年三月まで毎月末日に金五四万円宛、同年四月一五日に残額金七二万円を弁済する約定であつたことが認められ、<証拠判断省略>。
三本件船舶競売事件について
請求原因(三)の事実は当事者間に争いがない。
四商法第八四二条第七号の法意について
1 「雇傭契約」及び「船長其他ノ船員」の意義
商法第八四二条第七号は、雇傭契約によつて生じた船長その他の船員の債権について、特定船舶に対して船舶抵当権にも優先する優先弁済権を公平方法を求めずに認めているが、これは船舶に乗り組んだ船長その他の船員の労務により当該船舶が航海中保全されるが故に、また、危険な船舶の航海上の労務に服することによつてのみ生計を維持している船長その他の船員及びその家族の保護を図ろうとする社会政策的見地に基づいて認められたものである。
したがつて、「船長其他ノ船員」とは、船舶所有者若しくは船舶賃借人の被用者として、当該船舶に乗り組み、継続して船舶の航海上の労務に服する者、すなわち、船員法上の船長及び海員を指すものというべきであり、その要員として雇傭されてはいても当該船舶に乗り組まない船員法上の予備船員を含まないものと解すべきであつて、「雇傭契約」とは船員法にいう「雇入契約」を指すものと解するのが相当である。
一審被告らは、商法第八四二条第七号の「雇傭契約」は船員法にいう「雇入契約」とは区別されるべきであつて、右「雇傭」は商法第二九五条の「雇傭」と同意義に解釈されるべきであり、同法第八四二条第七号の「船長其他ノ船員」には船員法上の予備船員も含まれると主張する。
たしかに、明治二三年法律第三二号商法(以下、旧商法という。)第八四九条第一項第五号は、「最後ノ雇入契約期間中其契約ヨリ生スル船長及ヒ海員ノ債権」と規定していたが、明治三二年法律第四八号商法第六八〇条第七号(現在は第八四二条第七号となつている。)は、「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」と規定し、「雇入契約」が「雇傭契約」に、「船長及ヒ海員」が「船長其他ノ船員」にそれぞれ改められ、一見一審被告らの主張にそうかのような改正が行われている。
そこで、右改正の要旨が問われることになるわけであるが、船舶の航海中に船舶所有者に変更があつた場合、雇入契約は旧船舶所有者と海員との契約関係であり、法文に反対の規定がないときは、新船舶所有者と海員との間に何らの契約関係が存在しないこととなり、海員は新船舶所有者のために航海上の労務に従事することを要せず、航海は中途にして廃絶せざるをえないこととなる。かかる点を考慮して、前記明治三二年法律第四八号商法は、第五八四条に「航海中船舶ノ所有者カ変更シタルトキハ海員ハ新所有者ニ対シ雇傭契約ニ因リテ生シ剤ル権利義務ヲ有ス」という規定を設け、海員をして旧船舶所有者に対すると同様新船舶所有者に対しても雇傭契約の関係に立たせ、これによつて生ずる権利を与えるとともに義務を負わせたのである。そして、前記第六八〇条第七号は、右規定を受けて、航海中に船舶所有者に変更があつた場合にも適用されるよう「雇傭契約」という語を用いたものと推測される(なお、右第五八四条の思想は、昭和一二年法律第七九号船員法第二八条に受け継がれ、現行船員法第四三条は、相続その他の包括承継の場合を除き船舶所有者の変更があつたときは、船員と新船舶所有者との間に従前と同一条件の雇入契約が存するものとみなす旨規定している。)。
また、前記明治三二年法律第四八号商法と同じ日に施行された同年法律第四七号船員法第二条に「本法ニ於テ船員トハ船長及ヒ海員ヲ謂ヒ海員トハ船長以外ノ一切ノ乗組員ヲ謂フ」という規定が設けられたために、これを受けて、前記のとおり「船長及ヒ海員」が「船長其他ノ船員」に改められたものと推測される(なお、「予備員」が船員の中に含まれることになつたのは、昭和二二年法律第一〇〇号船員法からであり、「予備員」は、昭和三七年に右船員法が改正された際「予備船員」に改められた。)。
右のような法律の改正経緯にかんがみると、商法第八四二条第七号の「雇傭契約」とはまさに船員法にいう「雇入契約」を指すのであつて、右「雇傭」と商法第二九五条の「雇傭」とを同意義に解釈すべきではなく、同法第八四二条第七号の「船長其他ノ船員」の中に「予備船員」を含めて解釈すべきではないといわざるをえない。
更に、一審被告らは、今日では雇人・雇止が乗船・下船を意味するにすぎず、乗入契約を基礎とする賃金体系も存しないとして、海員と予備船員とを問わず、雇傭(入社)契約により生じたすべての債権が保護されるべきであると主張するが、今日の雇傭形態はたしかに後記認定のとおり一審被告らの主張するとおり認められるけれども、そのことから直ちに、当該船舶に乗り組んで労務に従事していない者若しくは乗組労務と関係のない債権を当該船舶に乗り組んで労務に従事していた者若しくは乗組労務と関係のある債権と同列に取り扱うことはできないのである。
2 雇入契約が「最後の」雇入契約に限られるか否か。
旧商法第八四九条第一項は、一般に「最後の」航海から生ずる債権を列挙していた。しかし、明治三二年法律第四八号商法第六八〇条は、航海の前後を問わず航海から生ずる債権について先取特権を与えるべきものにはこれを与えるという趣旨で右限定を削るとともに(第七号も例外ではない。)、数次の航海間の優先関係を規律する規定として、同号第六八二条第三項が新設されたのであつて、右改正経緯に照らせば、最後の雇入契約に限定されないことは明白である。
3 雇入契約により生ずる債権の範囲
船員法第三二条は、船舶所有者に雇入契約の締結に際し給料を明示すべきことを義務づけており、現に海員名簿(乙第一二号証)には、その額が明記され、これが管海官庁の認証を得ていること、そして、右の給料こそが乗組労働に対する直接の対価と解されることからすれば、本条の保護の対象が右の「給料」に限られるとするのも妥当であるかもしれない。しかし、船員法の規定は、「給料」を労働条件の一にして最も重要なものとして例示し、これを明示させることにより船員労働者の保護を図つたものに過ぎず、もとより雇入契約によつて生ずる債権をこれに限定したものではない。
そして、右債権の範囲を考えるには、何よりも今日における海員雇傭の形態を考えなければならないところ、<証拠>を綜合すると、全日本海員組合(これがわが国の海運業界の船員のほとんどを擁する職業別労働組合であることは公知の事実である。)と船主団体の間の労働協約が示すとおり、今日においては、もはや本条制定当初の一航海雇傭制度は著しく減少し、他の陸上労働者と同様永続的に船舶所有者に雇傭され、その命令によつて乗船、下船、転船するのが常態であり、雇入契約というも単に乗船契約に過ぎないものとなつていること、船員法により一定期間の乗組勤務が継続した後は、乗組中と同様の給料、手当を付した相当日数の有給休暇を付与すべきことが命ぜられているところ、右休暇は、雇止のうえ(予備船員としたうえ)付与されており、しかも雇止手当の支給ではなく休暇員としての賃金が支給されていること、船員法及び労働協約には、雇入契約期間でなく、雇傭契約期間(入社在籍期間)を算出の基礎とする各種手当や退職金などの「給料」以外の報酬が規定されていることが認められるのである。
右認定事実によれば、ここに定められた休暇中の給料や給料以外の報酬もまた、船員の乗組労働(雇入契約の履行)の対価であることは明らかであつて、先取特権による保護を受けうるものというべきである。したがつて、右雇傭形態のもとにおいては、本条の債権を雇入契約に定める「給料」に限るとするのは相当でなく、乗組労働(雇入契約)と対価関係を有する限度において、広く雇傭契約上の債権をも含むと解するのが相当である。換言すれば、一定期間の雇傭(入社在籍)を基礎に算出支給される給料並びに各種手当及び退職金などの給料以外の報酬については、その対象在籍期間に対する当該船舶への乗組期間の割合に応じた限度で、雇入契約により生ずる債権として先取特権の保護を受けるべきものである。
そして、この乗組期間には、船員法が有給休暇及び傷病休暇の付与を命じていることに照らし、現実の乗船期間(雇入から雇止まで)だけでなく、これに付与されるべき休暇日数をも含むものと解するのが相当である。
五商法第八四七条第一項の法意
商法第八四七条第一項は、船舶について航海ごとに数多く生ずる先取特権の累積を避けて船舶の売買、抵当権の設定に支障がないようにしたものであるが、反面、その債権発生原因が一年内のもののみが、現在の船舶を保全するのに寄与したものとして保護するに値するとみなしたものと解することができる。
そして、右立法趣旨に照らせば、先に述べた給料等債権算出の基礎となる乗組期間は、過去一年内に雇止となつた乗組に限るのが相当である。このように解しないと債権の累積が膨大なものとなり、右第八四七条第一項の意図を全く没却することになろう。例えば、退職金債権発生時から一年間右債権について先取特権を行使しうるものとすると、はるか以前に当該船舶に乗り組んだ者であつても、過去一年内に退職すれば、当該船舶に先取特権を主張して優先弁済を受けることができることとなる。かくては、船舶を譲り受けた者は、旧船舶所有者に雇傭されていた者に限らず、かつてその船舶に乗り組んだすべての船員(大規模な船で船員の転船が多ければ、旧船舶所有者に雇傭されていた者だけでも相当の人数となろう。譲渡、貸借が重なると膨大な数となる。)から追及を受けることとなり、それらの者と雇主との雇傭関係の消長に常に脅かされることとなる(除斥方法たる公告をしたとしても、現に雇傭中の者については効果に疑問があるばかりか、申出があれば同じことである。)。右の不都合は、一旦海運界が不況に陥り、一時に退職者が数多く出た場合を考えると一層明らかである。また、船舶に抵当権設定を得ようとする者についても同様であり、除斥方法もなく、かつ、将来においても累積するだけに一層不当な結果を招くことになるのである。
六先取特権の対象となるべき一審被告らの債権
1 先取特権を有する一審被告ら
まず、潮丸への乗組の有無についてみるに、<証拠>によると、一審被告らの配当加入の申立てのあつた昭和四六年一一月一七日以前の一年間又はこの間にわたつて潮丸に乗り組んだ者は、別表1記載の二一名(潮丸の最終航海に乗り組んでいた者)と別表2記載の一一名(それ以前に乗り組んだ者。右別表1と重複する者もある。)のみであること、これらの者の乗組期間は各表の乗船期問記載のとおりであることを認めることができる。
そして、<証拠>(昭和四五年度も同四六年度と同じ内容であつたと推認できる。)により、各乗組期間に対し付与されるべき有給休暇日数を算出すると、右各別表の休暇日数欄記載のとおりとなり、これを付加した乗組期間が、以下の給与等算出の根拠となるものである。ただし、<証拠>によると、右一審被告らのうち一審被告斉藤光弘、小池猛博、三和田義秋、服部貴雄、真野礼次郎、小島房吉及び北郷利治は、他社からの融通船員であつたこと、この場合、融通を受けた山幸海運は毎月の給料を支払う義務があるのみで、その余の有給休暇、退職金等は、融通した会社において負担するものであることが認められ(<証拠判断省略>)、右の一審被告らについては、休暇日数を加算しない。
なお、<証拠>によると、一審被告田渕暁及び小益男については傷病のため下船したこととされているが、これに要した休暇日数を認むべき証拠はないから、他の一審被告らと同様に有給休暇日数を付与するにとどめる。
よつて、以下においては右別表1、2記載の一審被告らについてのみ判断すれば足り、その余の一審被告らは、全く潮丸に乗り組んでいないか、若しくは右の有給休暇日数を加えてもなお過去一年内に乗り組んでいないものである(一審被告中村正につき乗り組んだ旨の主張があるが、海員名簿中にその名はない。)から、先取特権の主張は失当である。
2 九月分給料
<証拠>によれば、給料その他の報酬は、毎月二五日に支給されることになつていることが認められ、また、<証拠>によれば、その支給対象期間は前月二六日から当月二五日までであると認められるから、昭和四六年九月分の給料につき、先取特権を主張しうる者は、昭和四六年八月二六日から同年九月二五日までの間に潮丸に乗り組んだ者(前記の有給休暇を含む。)に限られるところ、これに該当するのは別表1記載の二一名の一審被告らと、別表2記載の一審被告らのうち一審被告小松繁利及び真野礼次郎の二名のみである。そして、別表1記載の二一名の一審被告らの同月分給料の未払額は、<証拠>によれば、別表3の九月分給料欄記載のとおりと認められる(<証拠>記載の本人渡し欄記載の額に各組合費額を加算したものであり、この加算については次に述べると同様の理由による。)更に、右小松及び真野については<証拠>によれば、九月分の給料総額は、小松金六万〇、六四〇円、真野金二万八、九二〇円と認められるから、支給対象期間三一日のうち、小松三一日(全期間)、真野一日の各乗組日数の割合分を求めると、小松金六万〇、六四〇円、真野金九三三円(一円未満四拾五入。前記労働協約(乙第四号証)の第九六条第二項による。以下同じ。)となり、これが同月分の未払給料につき右一審被告らが先取特権を主張しうる債権というべきである。
3 八月分組合費
<証拠>を綜合すると、前記労働協約において、組合員が組合に納入すべき組合費は、会社が月額給料の中から控除して組合に交付することとされていたこと、山幸海運はその雇傭する船員から右組合費を控除していたが、昭和四六年八月分はこれを控除しながら組合に交付しなかつたこと、右控除額は、別表1記載の一審被告らにつき、同表中八月分組合費欄記載のとおりであることが認められる。そして、右未納組合費は、結局のところ、一審被告らに対する給与の未払額にほかならないといえるから、その額を一審被告らは潮丸への乗組に対する未払給料として請求できるものと解する。なお、そのほかに右組合費相当分を請求する一審被告で八月分給料支給対象期間中に潮丸に乗り組んだ者はいない。
4 一〇月分給料
その支給対象期間たる昭和四六年九月二六日以降に潮丸に乗り組んでいたのは別表1記載の一審被告ら及び別表2記載の一審被告小松繁利のみであるから、これらの一審被告についてのみ先取特権を生ずるべきものである。ところで、別表1記載の一審被告らは、原判決添付の別表1の(2)の交付表記載のとおり未払給料債権を有する旨主張し、<証拠>にはこれにそう記載、供述部分があり、<証拠>の数額(本給、諸手当の計に航海日当を加えた額)に照らしても、<証拠>の各記載額は、各人の一〇月分の給料額として信頼するに足りるものといえる。しかし、右一審被告らはいずれも別表1記載のとおり乗り組んだのみで、山幸海運の倒産のため雇止となり、これと同時に雇傭契約関係も消滅したものと解しうるから、乗組に対する給料として請求しうるのは、昭和四六年九月二六日から各雇止の日までの割合分にとどまるというべきである(もつとも、その余についても有給休暇賃金を主張しうるが、これは次に述べるところであり、また、船員法の定める雇止手当は、前記労働協約によれば、退職金に含まれている。)。そして、これによれば、右一審被告らが主張しうる一〇月分未払給料額は、別表3記載のとおりである。また、一審被告小松繁利については休暇日数の付与により九月二八日まで潮丸に乗り組んでいたのと同視すべきであるから、一〇月分給料総額のうち三日分を主張しうると認められる(なお、<証拠>によると、少なくともこのころまでは山幸海運は倒産に至つていなかつたと認められるから、雇傭関係を前提にしての給料債権として認定できる。)。
5 陸上休暇賃金
一審被告らは、右費目の債権発生理由として、労働協約上有給陸上休暇が付与されており、その未済日数相当分の賃金請求権がある旨主張するけれども、既に述べたところからも明らかなとおり、結局潮丸への乗組勤務に対し付与されるべき有給休暇で未だこれが消化されていないのは、別表1に記載する一審被告らの各下船日の翌日以降の各認定休暇日数のみ(ただし、一審被告増田敏雄については、前掲乙第七号証の二により、残日数は二七日と認められる。)といわなければならない。したがつて、そのうち一審被告斉藤光広及び小池猛博(融通船員)を限くその余の一審被告らについてのみ各陸上休暇中の賃金の先取特権を主張しうるところ、<証拠>により陸上休暇中の賃金算出方式が求められ、その根拠となる右一審被告らの各乗船本給、家族手当、船長機関長手当、機関部手当を加えた月当り総額、その平均日額、一日金四〇〇円の割合による食料金を支給すべき日数をそれぞれ別表1記載のとおり認めることができる。したがつて、右一審被告らは、未消化の有給休暇日数分の賃金を別表3の記載のとおり請求することができる。
6 退職金
一審被告らのうち山幸海運に雇傭されていた者が山幸海運の倒産により退職を余儀なくされたことは前記認定のとおりであり、<証拠>によると、山幸海運の退職金(退職手当)は、退職時の基本給の八〇パーセントを算定基準額とし、入社在籍期間(勤務年数)の長短に応じて定められた支給割合(勤務年数一年につき算定基準額の何か月分)により支給されるものであることが認められる。そして、かかる場合には、これによつて一審被告らが支給されるべき退職金総額のうち、右勤務年数中に占める過去一年間の乗組期間又は過去一年間に跨つた乗組期間(いずれも有給休暇分を含む。)の割合に応じた額についてのみ先取特権を主張しうるものと解すべきことは、既に述べたところである。よつて、これに該当する一審被告らの勤続年数及び退職金総額を求めるに、<証拠>によれば、別表1、2記載のとおりと認められ(なお、<証拠>は、昭和四六年九月末日までの計算であるが、一審被告らはこれに記載されている退職金総額を主張するにとどまるので、これに従うこととする。もつとも、潮丸への乗組期間については、右期間計算を出ない範囲で右同日以降の乗組及び休暇期間を基礎とするのが相当である。)、潮丸への乗組期間は別表1、2記載のとおりであるから、一審被告らが先取特権を主張しうる退職金額は、別表3記載のとおりとなる。
7 退職加算金
一審被告らは、退職加算金とは、労働協約に定める退職年金制度に代わるものであつて、山幸海運の倒産後、同社の代理人と全日本海員組合との間に基本給の一〇か月分を支給する旨の約定をなしたものである旨主張する。<証拠>によると、労働協約において退職年金制度が設けられていること、山幸海運が倒産したため、組合において、山幸海運の代理人赤鹿勇弁護士と接衝した結果、他の給料及び退職手当(退職金)等の会社の支払債務の確認と並んで、退職年金に代え船員の生活保障のために退職加算金として基本給の一〇か月分を支払う旨の合意に達したことを認めることができる。しかし、他方、労働協約に定める退職年金は、船員の老後の生活安定を図るため(労働協約第一七二条)のものであり、船員経歴二〇年以上で定年に達して退職した者又はこれに準ずる者に対してのみ、一律に年額一〇万円を退職後一三年間支給するもので、勤続年数に応じて支給されるものではないことが認められる。したがつて、その趣旨は、もはやその勤続、すなわち労働に対する対価とは解することができず、本件退職加算金もまた労働の対価としてではなく、一審被告らの生活保障のために特に支給されることになつたにすぎないものといわなければならない。このことは、退職加算金の額を基本給の一〇か月分とするとの約定に比し、潮丸の最後の航海に乗り組んだ山幸海運在籍の一九名の一審被告らのうち、実に一四名が同社勤続わずか一年足らず(その半数は二か月に過ぎない。)であることに照らしても明らかである。
8 越年手当
<証拠>によると、昭和四六年六月一八日、山幸海運と組合との間で、同年一二月一日現在で会社に在籍する船員に対し、越年手当を同年一二月四日に支給すること、その基準額は、基本給の1.2倍に艤装員としての船長機関長手当及び家族手当を加えたものとし、昭和四六年六月一日から一一月三〇日まで六か月間の勤務を対象とし、全期間を勤務した者には、基準額の二一割を、勤務期間六か月未満の者にはその割合で減額して支給することと合意されたことが認められる。そして、右合意内容によれば、右手当は賃金の後払の性質を有するものと解されるから、一審被告らのうち、会社に在籍し、右対象期間内に潮丸に乗り組んだ者については、その乗組期間の割合に応じて右手当債権を有し、かつ、先取特権を主張しうるものといわなければならない。そして、<証拠>により認められる一審被告らの各基本給額、手当額によれば、基準額は別表1、2記載のとおり認められ、前認定の右対象期間中の乗組日数により、その額を求めると別表3記載のとおりと認められる(ただし、一審被告落、高山、時田、西口、小及び小松を除くその余の一審被告らについては、右によつて求められる額よりも請求額が少ないので、請求の限度で認容すれば足りる。)。
9 諸手当
一審被告らは、残業手当、家族手当等の諸手当が未払となつている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
10 旅費
<証拠>によれば、会社においては、陸上休暇のための下船に対し所定の旅費を支給する旨定めていることが認められ、右旅費は乗組により生ずる経費であり、雇傭契約上の債権として先取特権の対象となるものというべく、本件倒産により、潮丸からの下船に際し支給を得られなかつたと認められる別表1記載の一審被告らについては、本件先取特権の対象となるものというべく、<証拠>によると、その額は別表3記載のとおりであつたと認められる。その余の一審被告らについては、潮丸からの下船はかなり以前であつて旅費は既に支給済みと認められるから、その請求は失当である。
七以上に述べたところにより、一審被告らのうち別表3新交付表記載の一審被告らについては、その認容総額欄記載のとおりの債権につき、潮丸の競売に当たり、一審原告らに優先して弁済を受ける権利を有するものというべきであるが、これを超える部分については失当であるから、いずれも原判決添付の別表1の(1)、(2)(旧交付表)記載の交付額を別表3新交付表記載の交付額のとおり変更すべきものである。ただし、うち一審被告斉藤光広については認容しうる額が旧交付額を超えており、しかも同被告から旧交付表に対する異議の申立てはないから、旧交付額の限度で確定したものであり変更することはできない。更に、その余の一審被告らについては、いずれもその船舶先取特権の主張は失当であり、一審原告らの抵当権に優先して交付を受くべきものではないから、いずれも旧交付表から削除すべきものである。そして、一審被告らのうち、一審原告らの債権に優先して弁済されるべき総額は金四五八万五、七四二円であるから、旧交付額計金二、四三二万四、九二一円との差額金一、九七三万九、一七九円は、これを一審原告らの債権額に按分して一審原告らに交付すべきものである。
よつて、一審原告らの一審被告斉藤光広を除くその余の一審被告らに対する請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、一審被告斉藤光広に対する請求及び別表3新交付表記載の一審被告ら(ただし、一審被告斉藤光広を除く。)に対するその余の請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきである。
(中池利男 綱脇和久 原田和徳)
別表1、2、乗組計算表、別表3、新交付表、<省略>